Second Life virtual travel/仮想空間妄想旅行記5
Second Lifeを離れていた間に、インワールドもずいぶん変わっていた。それ以上に自分自身がいろいろなことを忘れていてすっかり初心者に戻っていることを痛感した。けれどあやさんのおかげでだいたいのことはわかってきた。これからはひとりでも行動していけるだろう。
そんな気持ちで今日は、ひとりで日本のSIMと思われる場所をいくつか回ってみた。
「幕末」「江戸」「新宿」といったSIMだ。服などのショップではちらほら人も見かけたが、チャットをするという感じではない。バーやカフェ、居酒屋(?)といった感じの店もあるのだが、そこには人がいない。週末とはいえ昼間では店員もログインしていないのかもしれない。
こうなってくるとひとりで行動できるようになったとはいえ、ひとりではつまらない気がしてくる。
改めてSecond Lifeの世界がコミュニケーションツールだという印象を強く感じた。ひとりで動き回り、いろいろな場所にでかけて行っても、誰かとコミュニケーションしなければ、SLの楽しさは半減してしまうと思えたからだ。
また夜にログインするか、と考えていたときに画面の右下にあやさんがログインしたというメッセージがでた。自分のフレンドのログイン、ログアウトを知らせるメッセージだ。
やっぱり今日も彼女に頼ってみよう。どこか気軽にチャットの出来るカフェがあったら教えてもらおう。そんな気持ちでIMしてみた。
「いまさらなんですが…」
今回彼女がテレポートで呼んでくれた場所は波の音がするビーチだった。周囲の椰子の木が南国ムードを漂わせている。そこで、いままでちょっと気になっていたのだがあえて聞かないでいたことを口にしてみた。
「あい、なんでしょう」
「あやさんの、チャットするときにでるその電気みたいなのはなんですか?」
SLではチャットのタイプをすると、アバターがあたかもキーボートを打ち込んでいるような動きをする。彼女の場合、それに加えて球形の、イナヅマというかプラズマというか、電気のようなものが手元に表示されるのだ。
「ああ、これ。チャットアイテムです」
「そういうのがあるんですか」
「うんうん。いろいろありますよ。わたしもほかにノートPCが出るのを持ってますし。クラシックなタイプライターが出るのとか、楽器のキーボードみたいなものとか」
「へえ。高いんですか? そういうの」
「フリーのものもありますけど、これは30L$くらいだったかな」
「へえ」

ボクはもうひとつ気になっていたことを聞いてみた。
「このあいだのライブのとき、チャットが20メートル離れると聞こえないって言ってましたよね。で、その範囲に人がいないから大丈夫って」
「あ、うんうん」
「それってどうやって調べるんです?」
「これはレーダーがあるんです。対人レーダー」
「へえ」
「自分の周りにいるアバターの距離と名前が表示されるのが基本かな。レーダーによってどの方向にいるとか、自分の位置より上とか下とか、高さが表示されるのもありますよ」
「それはどれくらいの範囲がわかるんです?」
「レーダーにもよりますけど、だいたい100メートルくらいはカバーしてるんじゃないかな」
「ふむふむ」
「あと、持ってると便利なものだったら…翻訳機とかかな。女性アバターだったらフェイスライトもあった方がいいだろうけど…最近は男性アバターもつけてるかな」
「翻訳機! フェイスライトって?」
「翻訳機は、通常チャットの発言を翻訳してくれるアイテムです。たとえばこちらが日本語で入力すると英文にしてくれて、相手の英文を和訳して表示してくれます」
「へえ、英語苦手だからたすかるなあ、そういうアイテムは」
「うんうん。でも機械翻訳だから教科書のような日本語で入力しないときちんと英訳してくれないんですよね。話し言葉としては不自然な感じになりますよ。逆にいつもの調子で日本語を入力するととんでもない訳になってたりします」
「なるほど。翻訳は英語だけ?」
「いえ、けっこう他言語に対応してるものもありますよ」
「へえ」
「フェイスライトは、たとえば夜の時間帯などで顔が陰になっているようなときに、光を当ててキレイにみせるアイテムです。これもいろいろあって、場所によっては光が強すぎて周りの人に嫌がられることもあります」
「そうなんだ。あればいいってものでもないんですね」
「これも進化していて、周囲の光を計算して自然に見えるようにしてくれるのとかあるみたいですね。高いけどw」
「そうなんだ」
「そういえば、あやさんときどき笑いますよね、アバターが。それも何かのアイテム?」
「そうです。表情をつけるアイテムがあります。あと立っているポーズとか歩くアニメとか、デフォルトではないものはAOを使っています」
「うんうん、それはSL休む前にも聞いたことあります。高いから買えなかったけど」
「そかそか。いまはフリーでもいいのがありますよ」
「そうなんだ」
「わたしはクレジットカードも登録していない、リアルマネーは使わない主義なのでほとんどフリーのものを使ってますよ。このスキンもフリーだし」
「そうなんですか? フリーにはみえませんね」
「前にもお話ししたと思いますけど、フリー商品以外にも、ショップの人集め用に商品をセレクトしてラッキーボードなどで配布しているのがあるから、けっこう質のいいものがフリーで手に入るんです」
「なるほど。そういう情報ってどうやって集めるんです?」
「そうですね~、SLユーザーに特化したSNSとかブログサービスがあるんですよ」
「ああ、そういえばありましたね。なんだっけ…SLマメ…」
「ソラマメというブログサービスですね。SLユーザーが日記を書いたり、お店の宣伝したりしてますよ。どこのお店でこんなラッキーボードがでてるとか、新商品がでたとか、ユーザーが情報交換していますね」
「ログインする前に見るといいわけですね」
「ですね。まあ、ログインしてからブラウザ出してチェックしている人も多いですけど」
「なるほど」
「記事にSLURLがでていることがほとんどですから、すぐにTPできるわけです」
「そうかあ。インしていた方がいいんだ」
「そそ」
「この場所もそんなふうにして見つけたんですか?」
「いあ、ここは友達が借りている土地なんですよ」
「へえ」
「土地の音楽もハワイアンで、その人の趣味」
音楽を流してみると確かにハワイアンが流れていた。この場所に似合いすぎる感じだ。
「あ、ほんとだハワイアンだ」
「土地を持っていたり借りたりすると、こういうことができるからいいですよね」
「建物を建てるだけではなく、こんなビーチも自分で作れるんですねえ」
「うんうん」
SLの自由度というのを改めて知ったような気がする。コミュニケーションにプラスして自由になにかを作ることができる世界というのは、ほかにはないだろう。
「あやさんもなにか作ったりすることあるんですか?」
「簡単なものなら作ることもありますよ。でも複雑なものは作れないから、積み木みたいなもんです」
「積み木かあ。確かにプリムを並べたり重ねたりって、積み木みたいなものかもしれませんね」
「うんうん」
考えてみれば、いま周囲にみえているもののほとんどはユーザーによって作られたものだ。Second Lifeを運営するリンデン・ラボ社がプロのデザイナーを使って用意したものではない。もちろんユーザー自身がデザインの仕事をしている場合もあるだろうが、ほとんどはリアルでは普通のサラリーマンだったり、デザインやアートには無関係な人たちのはずだ。SLを始めて、SLでのもの作りによって、自分の才能に目覚めるというか、デザインすることや何かを作ることに楽しさを感じた人たちが多いと思う。それもまたSLの楽しみ方のひとつであり、可能性のひとつといえるだろう。
そして、それらもまたコミュニケーションがあってこそ楽しめるということも、ボクは今日感じていたはずだ。
「ところであやさん」
「あい」
「どこか、気軽にチャットできるような場所ってあります?」
「とういうと、人が集まっている場所ってことです?」
「うんうん。さっき何か所か行ってみたんですけど、これといった場所がなかったので、どこかいい場所があれば教えてもらおうかと」
「うんうん。そうですねえ…カフェみたいなところのほうがいいですよね。ダンスとかジェスチャーで騒いでいるような場所より」
「そうですねえ。できればチャットで話しを楽しむような場所がいいなあ」
「ちょっとランドマーク探してみますね。まってね」
「はい、すみません」
数分待っていると、右上に彼女からランドマークが送られてきたことを示す窓が開いた。受け取りのボタンをクリックすると、もうひとつ窓がでている。これも別の場所のランドマークらしい。
「とりあえず2か所です」
「ありがとう」
「夜だったら誰かいると思うので、行ってみてください」
「はい」
「お店の雰囲気とか、集まっている人の感じとかは行ってみないとわからないだろうから…気に入るといいんですけどね」
「そうですね。1度のぞいてみますよ」
「うんうん」
「それじゃ、ちょっとリアルででかける用事があるのでこれで落ちますね」
「あ、はあい。いってらっしゃい」
「またです~」

彼女がログアウトすると、なんだか急に静かになったような気がする。テキストのチャットなのだから声が聞こえていたわけではないのに不思議な感じだ。
改めて周りを見回してみると、白い砂浜になみがうちよせている。音楽を切ると波の音がよく聞こえ、本当の海岸にいるような気分になれる。
自分でもこんな場所を作って、そこに人が集まったら…、ふとそんなことを考えてみた。きっとSLの中でカフェやバーを経営している人たちはそんなことを考えて始めたのだろう。
なんとなく、SLでの目標が見つかったような気がした。いつかその目標が実現できるのか、またSLに魅力を感じてくなって離れていくのか…。いまのボクにはどちらとも言えないが、少なくとも以前SLを離れたときとは違う「手応え」のようなものを感じているのは確かな気がする。
この思いが続いている限り、SLの可能性を感じている限り、またSLに戻ってくるだろう。そんなことを考えながら終了ボタンをクリックしていた。