Second Life virtual travel/仮想空間妄想旅行記6
「こんにちは、いらっしゃいませ」
あやさんに教えてもらったお店のLMにテレポートしてみると、すでにそこはお店の中で、カウンターの中にいる女性が声をかけてきた。
「こんにちは」
周囲がまだ表示されずぼんやりしていたが、とにかく返事をしなければ、とボクは挨拶を返していた。けれどその女性の姿がハッキリ見えてくると同時に名前をよくみてみると…。
「あれ、あやさんじゃないですか」
「はいw」
ボクはカウンターに近づいてアバターを確認した。
「ここって、あやさんのお店?」
「実はそうです。もうひとつの方はもう行かれました?」
「いえ、こちらから来てみました。なんだ、びっくりしたなあ」
「そっか、こっちはあとからいらしてくれれば、と思ってたんですけど」

「ここはひとりでやってるんですか?」
カウンターの席に座ってボクは聞いてみた。
「いえ、夜はほかにもスタッフが手伝ってくれてますよ」
「そうなんだ」
四方の壁はガラスタイルで外の風景が見え、片側はすぐに海になっている。
カウンターはしごくシンプルだが、あやさんの後ろのバックバーはお酒のビンが並んでなかなか豪華な感じだ。
床は…波が寄せていた。
「あれ、ここって海なんですか?」
「あはは。床が水面よりちょっと低いんです」
「そんなこともできるの?」
「うん。土地を編集することで深海にも高い山にもできますよ」
「へえ」
もちろん土地を編集するには、自分でSIMを持ったり、土地を借りたりしなければならないだろうが、いま話を聞くまでは、たんに平らな地面に建物を置いていくというイメージしか、自分は持っていなかった。
「SLの中に山があったりビーチがあったりしますけど、ああいう土地もユーザーが作っているわけですか」
「そうですね。昨日のビーチもそうです」
「なるほど~」
「もしかして、この波も?」
ボクは足元に寄せている波が、SIMの外の海にはないことに気がついた。
「うん、こういう波もユーザーが作ったものですよ。波専門のショップもあります」
「へえ」

改めてSLの世界はユーザーが自由に作り上げているのだと感じた。土地を持って自分の好きなように造成して、建物を造ったら…SLユーザーがただこの世界でチャットをするだけでなく、もの作りや店の経営をするのが少しわかったような気がした。
「ここはぜんぶあやさんが作ったんですか?」
「作ったものもあるし、フリーで集めたものを改造したものもありますね」
「改造というと?」
「編集可能なアイテムのテクスチャーを貼り替えたり、必要な部分だけ残して別のパーツと組み合わせたり、ですね」
「そういうこともできるんですね」
「ですです。この建物もフリーのもので、周りの壁はもともと木目だったんですけど、ガラスタイルのテクスチャーを貼ったんですよ」
「なるほど」返事をしながら改めて周りを見回してみる。そしてひとつのことに気がつき、彼女に聞いてみた。「ここ、入り口というかドアとかないんですね」
「あ、うんうん。壁のひとつがファントムになっているのでドアは作らなかったんです」
「ファントム?」
「うん。プリムを通り抜けられるようにできるんです」
「へえ、そういうこともできるんですね」
SLの中でお店を経営しているユーザーは多い。自分でつくった服やグッズを販売するためにショップを持つのは自然な流れだろう。
「あやさんはなぜバーを作ったんですか?」
「というと?」
「あ、いや、SLでお店を作るのはバーでなくてもよかったわけでしょ?」
「そうですね。わたしは服やスキンは作れないし、売り物になるようなグッズも作れないから」
「なるほど」
「それ以上に、SLをチャットを楽しむ場所だと思っているので、カフェとかバーのような、人が集まってチャットをする場所を作りたかったんです」
「ああ、そういうことなんですね」
「そうだ。このお店のグループに招待しますね」
「はい」
彼女がそう言ったあと少し待っていると右上に青い窓が開いた。グループへの参加を確認するメッセージが表示されている。ボクはOKして窓を閉じる。するとグループを名前といっしょに表示するかどうかを確認する青い窓が出たのでこれもOKした。ボクの頭の上に表示されている自分の名前の上に「SUZUKAZE-YA VIP」と表示された。
「お、VIPなんだ」
「あはは。グループに入るといきなりVIPになります」
「そうなんだ」
VIP扱いはうれしいな、とちょっと思っていたので正直…まあ、でもこんなもんだろう。
「お客さまにランクつけるのもなんか気が引けるので、一律VIPにしたんですよ」
「なるほど~」ボクはふと気になったことを言ってみた。「このグループというのは、誰でも作れるんですよね?」
「うんうん、作れます。ただし100L$かかりますけど」
「そうなんだ。けっこうかかりますね」

「ところで」彼女が言った。「わたしもひとつ、うかがいたいことがあるんですけど」
「はい、なんでしょう」
「SLをしばらく離れていたって言ってましたよね。戻ってきた理由ってなんです?」
「ああ」
特に理由があって戻ってきたわけではなかったので、一瞬ボクは言葉に詰まってしまった。
「べつにこれといった理由はないんですけど…ネットのニュースで最近のSLの話題を見たことかもしれませんね。『そういうえば、いまSLはどうなってるんだろう』っていう気持ちだったかな」
「なるほど~」
「ユーザー数は増えてるみたいですけど、このまえあやさんに聞いたみたいにそのぶん世界も広くなってみんな分散しちゃってるみたいだし」
「うん」
「でも、ボク自身は戻ってきたというより、初心者からやり直した感じですね」
「以前SLを離れた理由って聞いてもいいですか?」
彼女はしばし間を置いてから言った。
「差し支えなければでいいですけど」
「うん、別にトラブルがあったとかいうわけではないからかまわないですけど」
とそこまでチャットを打ち込んでから、自分でもSLを離れた理由をひと言でどういえばいいのか考えてしまった。
「SLの楽しみ方がよくわからなかったということですね、やっぱり」
「ふむふむ」
「そんなにインもしなかったし、ひとりでぶらぶらしててもあんまり面白くないなあという印象はありました」
「今回はどうです? 続きそうですか?」
「う~ん…確かにあやさんのおかげで以前よりSLのことがわかった気がしますし、チャットとかコミュニケーションがSLの要素として大きいという気もしてます」
「ですね。もの作りに没頭するか、コミュニケーションを楽しむかっていうのがSLの要素として分けられるかもしれませんね」
「うん。もの作りはまだやったことがないから、今度はそっちも始めてみようかな」
「うんうん。けっこうハマるかもしれませんよ」
「うん、自分でいろいろなものが作れたら楽しそうですよね」
「アクセサリーのような小さいものからお城のような大きなものまで、その気になれば自分で作れますからね。ハマったら奥が深いですよw」
「ですね~」
「もの作りが楽しくなると、時間の経つのも忘れちゃいますからログイン時間も長くなりがちですよね」
「あ、なるほど」
「だいたいSLユーザーの人ってみんな睡眠時間短くなってるみたいですw まあオンラインゲームやってる人は共通してそうなのかもしれないけど」
「ああ、そうかもしれませんね。ボクも気をつけないとなあ」
「リアルあってSLですからね。ほどほどにw」
「うんうん」
いまは休日の昼間だから時間は気にならなかったけれど、休みの日にどこにもでかけずにSLをしているというのもなんだかな、という気にはなってしまった。
「それじゃボク、ちょっとリアルで出かけてきます」
「はい。いってらっしゃい」
「またいろいろ教えてください」
「はい、またです~」
SLをログアウトしてPCのデスクトップ画面が表示されると、ちょっと寂しい気もした。日用品の買い物があるとはいえ、無理に出かけることにしたのもネットに依存しているのではないかという不安がさせたのかもしれない。
適度な距離感を持って続けていけるやり方を考える必要もありそうな気がした。とはいえSLはすべてを自分でコントロールすることができる世界だ。レベルアップもクエスト消化も必要ない。きっとボクなりのSLの楽しみ方を見つけることができるだろう。
そう、週末だけあやさんのお店でチャットするだけでもいいのだから。
そんなことを考えながらボクはPCの電源を落とした。